意味のない序章
何をどこで間違えたのだろうか。
誰がこんな結果を望んだのだろうか。
少なくとも自分が望んでいなかったのは確かだ。
いや、本当に望んでいなかったのか?
この世に偶然なんてものが存在するのか?
存在するのかもしれない。だが今この空間には必然しか存在していないのでは?
そうでなくては目の前の事象をどう説明するというのだ。
今自分の周りを包み込んでいるのは何だ?
何も感じない、何も存在しない。
まるで全てが死んでいるかのように。
死。
限りなく死んでいる世界。
とても静かだ。これが死後の世界ってやつか?
体が震えてくる。
そうか死んじまったのか。
「―――、落ち着いて」
静寂が支配していた空間に、ひびが入る。
「―――」
もう一度。最早ひびではなく、確固とした亀裂が入った。
何だ、何が生じた。
ああ、言葉が発せられたのか。それだけのことか。
では何を意味している?
「―――」
これで三度。
―――、口に出してみる。何だ俺も言葉が出せるのか。
そうか、俺は自分のことを俺と呼んでいたのか。
世界に表現が戻ってくる。
感覚がはっきりしてくる。
どうも気が動転していたらしい。
―――は俺の名前か。
何度も自分の名前を口に出してみる。
―――、―――、―――!―――!!―――!!!
ひどく愉快になってきた。
思わず笑いがこぼれる。
なんてこの空間にそぐわないんだ。
だがそれがたまらなく素敵だ。
「大丈夫?―――」
ああ、大丈夫だ。心配するな。
さっきまで動転していたくせに、見栄なんかはっていやがる。
それもまた愉快でしかない。
また笑いがこぼれる。もう笑いが止まらない。
ほぼ感覚が戻ってきた。
俺は隣にいる女を見つめた。
さっきから俺の名を呼び続けていた女だ。
そして俺の――
「もう大丈夫みたいだね」
笑顔を向けてくる。
ああ、もう大丈夫だ。
よし、わかった。受け入れてやろうじゃないか。
もうこれ以上ないぐらい滅茶苦茶な目の前の存在。
これをさらに滅茶苦茶にしろってんだろ?
OK、OK。よーくわかったよ。確かにそれが俺の仕事だ。
久々に張り切ってみますか。
さあ、お仕事のじかんだ。